不動産業は個人事業主でも開業できる?宅建業免許の取得条件と注意点を解説

不動産業界で独立・開業を考えている方の中には、「法人じゃないと開業できないのでは?」「個人事業主で不動産業を始めるにはどんな準備が必要?」と疑問を抱く方も多いのではないでしょうか。
結論から言えば、不動産業は個人事業主としても開業可能です。ただし、宅地建物取引業(宅建業)を営むためには、法人か個人かに関わらず「宅建業免許」の取得が必須であり、一定の条件と準備が必要になります。
本記事では、個人事業主として不動産業を始める場合の宅建業免許取得の要件と、開業における注意点をわかりやすく解説します。
個人事業主でも宅建業免許は取得可能
不動産業を始めるには、「宅地建物取引業者」として都道府県または国土交通大臣から免許を受ける必要があります。
これは法人でも個人でも条件は同じで、個人名義で免許を取得すれば、個人事業主として営業が可能です。
個人で取得する場合、代表者本人が宅建業者として登録され、個人名で契約・請求などを行うことになります。
税務上は「開業届」を税務署に提出し、青色申告や白色申告などの方式を選んで経理処理を進めていきます。
宅建業免許の取得条件(個人の場合)
個人事業主として宅建業免許を取得するには、以下の条件をすべて満たす必要があります。
1. 宅地建物取引士の設置
営業所ごとに専任の宅地建物取引士(宅建士)を1名以上配置する必要があります。
専任とは「常勤かつ専業」であることを意味し、たとえば開業者本人が宅建士であれば、自ら専任者として登録することが可能です。
宅建士資格がない場合は、外部から有資格者を採用する必要があり、雇用形態や勤務日数にも注意が必要です。
2. 事務所の設置
宅建業免許を取得するには、一定の要件を満たした独立した事務所(営業所)の設置が必要です。たとえば以下のような条件があります。
- 居住スペースとは明確に区切られている
- 他業種との併用ではない(専用スペースが確保されている)
- 標識(宅建業者票、報酬額票)を掲示できる
マンションの一室や自宅の一部でも条件を満たせば事務所とすることが可能ですが、建物の契約形態(賃貸契約書)や構造に注意が必要です。
3. 経歴審査(欠格事由がないこと)
宅建業免許には、一定の「欠格事由」が設けられています。たとえば以下のような場合は、免許を取得できません。
- 過去に宅建業法違反等で免許を取り消されてから5年以内
- 禁錮以上の刑に処された後、一定期間が経過していない
- 暴力団関係者またはその密接関係者
これらは開業者本人だけでなく、専任宅建士や政令使用人(実務責任者)にも適用されます。
4. 営業保証金または保証協会への加入
免許取得後に営業を始めるためには、営業保証金の供託(1,000万円)または保証協会への加入(分担金60万円)が必要です。
個人事業主の場合、資金負担を抑えるために、ほとんどの方が「保証協会(全宅または全日)」への加入を選択します。
個人で不動産業を始めるメリットと注意点
設立費用が抑えられる
法人設立には登記費用や定款認証などで20万円前後かかりますが、個人事業主であれば開業届を税務署に提出するだけでOKです。初期費用を抑えたい方には有利です。
税務手続きがシンプル
個人事業主の場合、法人のような複雑な決算手続きは不要です。青色申告特別控除(最大65万円)を活用すれば、節税効果も得られます。
信用面で法人に劣る場合も
不動産業は高額取引が多いため、金融機関や顧客からの信用力は法人の方が高いと見なされるケースがあります。特に売買仲介や投資家向け物件を扱う場合、法人格の有無が商談に影響することもあります。
人材採用や事業拡大に限界がある
個人事業主の場合、事業規模が大きくなると人材採用や資金調達の面で不利になることがあります。将来的な法人化を見据えておくことも重要です。
事業とプライベートの分離が難しい
個人名義で事業を行うため、トラブルや債務が個人資産に直接影響するリスクもあります。開業前には事業用口座・携帯・印鑑などを明確に分ける準備が必要です。
宅建業免許取得の手続きと流れ(個人の場合)
開業準備が整ったら、以下の手順で免許取得を進めます。
必要書類の準備
- 宅建業免許申請書
- 身分証明書(本籍地の市区町村発行)
- 登記されていないことの証明書(法務局)
- 事務所の使用権原を証明する書類(賃貸契約書など)
- 専任宅建士の資格証明書・履歴書
- 誓約書・略歴書
免許申請の提出先
- 主たる事務所が1つの場合 → 各都道府県知事
- 複数都道府県に営業所を設ける場合 → 国土交通大臣
提出は原則、事務所所在地を管轄する建設事務所等になります。
審査・免許交付
申請から免許交付までは約30〜45日が目安です。
免許が交付されると、宅建業者票などを事務所に掲示する準備を進め、営業保証金や保証協会の手続きを完了させれば、正式に営業を開始できます。
まとめ:個人事業主でも不動産業は十分に開業可能。だが計画的な準備が必要
不動産業は法人でなくとも、個人事業主として十分に開業・運営することができます。開業コストや税務の簡便さといった点では個人の方が有利ですが、信用力や事業拡大の面では法人に軍配が上がる場合もあります。
宅建士資格の有無や事務所の条件、資金計画などをしっかり確認したうえで、自分の働き方や将来像に合った開業スタイルを選ぶことが成功のカギです。
まずは開業後に想定される業務や収支の見通しを立て、個人開業と法人化のどちらが現実的かをじっくり検討してみましょう。必要に応じて、税理士や行政書士などの専門家に相談するのもおすすめです。