不動産会社のM&Aによる開業|買収の流れとメリット・リスク

不動産会社を新たに立ち上げる手段として、近年注目されているのが「M&A(企業の買収・合併)」を通じた開業方法です。ゼロから会社を設立するのではなく、すでに事業実績のある不動産会社を買収することで、即日開業が可能になる点が最大の特徴です。
この記事では、不動産業界への新規参入を考える個人・法人向けに、M&Aによる開業の具体的な流れ、活用するメリット・注意すべきリスクについてわかりやすく解説します。
M&Aで不動産会社を開業するとは?
M&Aによる開業とは、既存の不動産会社を買収し、その経営権や営業権を引き継ぐことで、自社の事業として不動産業をスタートさせる方法です。法人での買収が主流ですが、個人事業者が法人を買収するケースもあります。
特に「宅建業免許」を取得済みの会社を引き継ぐことで、新たな免許取得手続きや事務所開設の時間を大幅に短縮できるため、短期間での事業立ち上げが可能になります。
M&Aはどんな人に向いている?
- 開業までの準備期間を短縮したい
- 宅建業免許取得の手間を省きたい
- 実績ある法人としてスタートしたい
- 人材・顧客・物件を一括で引き継ぎたい
- すでにある程度の資金力や法人基盤がある
一方、コストを抑えて自由な形で開業したい方には、ゼロからの創業の方が向いている場合もあります
不動産会社M&Aの基本的な流れ
M&Aによる不動産会社の買収は、以下のような流れで進んでいきます。
買収対象企業の探索
まずはM&A仲介会社や専門サイトを通じて、売却希望の不動産会社を探します。主に以下のような情報を確認します。
秘密保持契約(NDA)の締結
売却希望企業の詳細情報を入手する前に、情報漏洩を防ぐための秘密保持契約を締結します。
企業概要資料(IM)の確認
M&A仲介業者から、企業の財務情報・人員・免許情報などが記載された資料が提供されます。自社の目的と合致するかを見極めます。
面談・質問対応・現地視察
実際に代表者との面談や、現地のオフィス視察などを行い、経営体制や従業員の雰囲気を確認します。
価格交渉・基本合意書の締結
条件が整えば、譲渡価格や引き継ぎ条件を交渉し、基本合意書(LOI)を締結します。
デューデリジェンス(精査)
弁護士や税理士と連携し、会社の法的・財務的な状態を調査します。免許の瑕疵や債務超過、過去のトラブルがないかをこの段階でチェックすることが重要です。
最終契約・クロージング
すべての条件が合意された段階で、株式譲渡契約などを締結し、実際に会社の経営権を引き継ぎます。
営業再開・社名変更・業務引き継ぎ
買収後は必要に応じて社名変更や登記変更、営業活動の再開を行います。宅建業免許の名義変更も忘れずに申請しましょう。
実際にM&Aをする場合は仲介会社がサポートしてくれるため、簡単に頭に入れておくだけで問題ありません。
M&Aによる不動産会社開業の主なメリット4つ
1. 宅建業免許を引き継げる
通常、宅建業免許を取得するには、事務所設置や人員要件など多くの条件を満たす必要があります。M&Aを活用すれば、すでに免許を取得済みの会社を買収することで、そのまま事業を開始できます。
2. 人材・顧客・物件情報をまとめて引き継げる
不動産会社を経営するうえで、人材の確保は非常に大切です。
M&Aではすでに営業社員や管理スタッフ、既存顧客リスト、物件情報など、ゼロから構築するには時間がかかる資産を一括で引き継ぐことができます。
3. 開業準備期間を短縮できる
不動産会社を0から設立した場合、法人登記・事務所確保のほかに、宅建免許の申請から交付に30日以上の時間がかかります。
M&Aで不動産会社を始める場合、契約締結後すぐに営業開始可能なケースもあります。
4. 金融機関との取引実績も活用できる
買収企業がすでに金融機関との取引実績を持っていれば、融資や取引先の信用確保にもプラスになります。ゼロから信用を積み上げる必要がない点も大きなメリットです。
M&Aによる不動産開業で注意すべきリスク
1. 隠れた債務・法的リスクの存在
表面上の財務データでは分からない債務や、過去のトラブル、訴訟案件、宅建業法に関する行政指導歴などがある場合、買収後にトラブルが発覚するリスクがあります。
→ デューデリジェンスを必ず実施することが重要です。
2. 宅建業免許の名義変更が必要
宅建業免許は個人や法人に紐づいているため、M&A後に事務所住所や代表者、商号を変更する場合には、免許の「変更届」や「新規取得」が必要となるケースもあります。
→ 免許そのままで継続可能か、都道府県の窓口に事前確認を行いましょう。
3. 社内文化や従業員とのミスマッチ
既存社員が残る場合、新オーナーとの方向性の違いや待遇の変化により、人材流出やモチベーション低下を招くリスクもあります。
→ M&A後の社内コミュニケーション計画を入念に立てましょう。
4. 買収価格が相場より高い可能性
短期間での開業を優先するあまり、利益に見合わない高額な買収価格を提示されるケースもあります。自社にとっての価値を見極め、冷静に判断する必要があります。
不動産業の事業承継に活用できる主なマッチングプラットフォーム
実際にM&Aを行う場合、仲介業者を利用する必要がありますが、近年M&A業界の活況により、多くの業者が存在します。
まずは業界大手・老舗と言われている業者を抑えておくとよいでしょう。
1. TRANBI(トランビ)
- 特徴:国内最大級のM&Aマッチングサイトで、利用者数・案件数ともに豊富。
- 不動産業の案件例:賃貸仲介、管理専門、売買仲介など幅広く掲載。
- 利用メリット:
- 初期費用無料で始めやすい。
- 自分で売り手に直接アプローチ可能。
- 地方の案件も多く、検索性が高い。
2. Batonz(バトンズ)
- 特徴:中小企業向けM&Aに特化したオンライン型プラットフォーム。
- 不動産業の案件例:法人宅建業免許保有業者の売却案件など豊富。
- 利用メリット:
- アドバイザーの無料相談が可能。
- 「希望エリア・希望業種」でフィルタでき、案件探しがスムーズ。
- 手続きフローや書類のテンプレートも充実。
3. 日本M&Aセンター
- 特徴:業界最大手のM&A仲介会社。中堅・中小企業に強み。
- 不動産業の案件例:規模の大きい法人向け不動産業者の承継支援実績が豊富。
- 利用メリット:
- 専門チームによるフルサポート型。
- 秘匿性の高い非公開案件も多い。
- 宅建業免許の扱いなど業界知識も豊富な担当者が対応。
まとめ:M&Aを活用すれば不動産業への参入はより現実的に
不動産業界でのM&Aは、免許取得の時間と手間を短縮し、即戦力のある状態でのスタートを可能にする有効な手段です。特に法人として不動産事業に新規参入したい方にとっては、大きな選択肢となります。
ただし、リスクも伴うため、専門家のサポートを受けながら、慎重かつ冷静に進めることが成功の鍵です。目的と予算に応じて、ゼロからの開業とM&Aを比較検討し、自社に最適な形で不動産事業をスタートさせましょう。