不動産開業前に整えておくべき契約書テンプレートと作成のポイント

不動産会社を開業するにあたって、準備すべきものは多岐にわたりますが、見落とされがちなのが各種契約書の整備です。開業直後に「契約書がなくて業務が進まない」「雛形が不十分でトラブルになった」というケースも少なくありません。
本記事では、不動産会社が開業前に整えておくべき主要な契約書テンプレートと、それぞれの作成・運用における実務的なポイントをわかりやすく解説します。
なぜ不動産開業前に契約書を整備すべきなのか?
契約書は、不動産取引においてトラブル回避や法的保護の要となる存在です。特に開業初期は実務フローも不安定なため、契約書の完成度がそのまま信頼度・業務の質に直結します。
整備しておくことで得られるメリットは以下の通りです。
不動産開業前に準備すべき主要契約書テンプレート
1. 媒介契約書(売買・賃貸)
不動産会社が売主・貸主と仲介業務を行う際に必須となる契約書です。
種類
作成のポイント
- 媒介期間の明記(売買は3ヶ月以内)
- レインズ登録義務(専属専任・専任の場合)
- 報告義務の頻度
- 契約の自動更新可否の明記
→ 法定書式の遵守が求められるため、国土交通省の標準媒介契約書をベースにアレンジするのが基本です。
2. 重要事項説明書(35条書面)
宅建士が契約前に顧客へ交付する説明書類。トラブル防止の中核を担う書面です。
作成のポイント
- 宅建士による記名押印と説明の実施が必須
- 登記情報や用途地域、建築制限などの正確な記載
- 電子交付をする場合は電子説明ログの保管方法も明確に
→ 物件種別ごとにテンプレートを複数用意しておくと実務がスムーズになります。
3. 売買契約書・賃貸借契約書(37条書面)
契約の根幹となる書類で、買主・借主との間に法的効力を持つものです。
作成のポイント
- 手付金の額と解除条件の明記
- 引き渡し日・残金支払日・違約金の設定
- 賃貸では敷金・原状回復・更新料の明確化
- 免責事項や解除条項も可能な限り具体的に
→ 民法改正により、原状回復や契約解除に関する記載内容の明確化が求められるようになっています。
4. 管理委託契約書(賃貸物件の場合)
オーナーから物件管理を請け負う際に交わす契約書です。
作成のポイント
- 業務範囲(募集・集金・清掃など)の明示
- 報酬体系(定額か歩合か)
- 契約期間・中途解約条件
- 免責事項・損害賠償の取扱い
→ 管理業務はトラブルが多いため、境界線を明確にし、責任の所在をはっきりさせることが大切です。
5. 個人情報取扱同意書
仲介業務では顧客の個人情報を多数取り扱うため、個人情報保護法に基づいた同意書の取得が必要です。
作成のポイント
- 利用目的(媒介・紹介・広告など)の記載
- 第三者提供の有無
- 保存期間と破棄の基準
→ 電子化・クラウド管理が増える中で、プライバシーへの配慮は信頼確保に直結します。
契約書作成・運用で意識すべきポイント
1. 雛形をそのまま使わず、自社の業務実態に即した内容にする
ネットや市販のテンプレートをそのまま使うと、実態に合わない条項が混在してしまうことがあります。以下のようなカスタマイズが必要です。
2. 定期的にアップデートを行う
法改正(民法、宅建業法、個人情報保護法など)により、契約書に求められる要件も変化します。年に1回程度は以下のチェックを行いましょう。
3. 弁護士・行政書士に初期レビューを依頼する
開業初期は、最低でも1回は専門家のチェックを受けることを強く推奨します。契約書はトラブルが起きてからでは遅いため、初期コストを惜しまない姿勢がリスク回避につながります。
契約書の電子化対応も開業時に検討を
不動産業界でも、電子契約やクラウド契約管理が徐々に浸透しています。開業初期からこれに対応しておくと、以下のようなメリットがあります。
→ 弁護士ドットコムの「クラウドサイン」や、不動産特化型の電子契約サービスなどを比較・導入検討しておくと、業務効率化が大きく進みます。
まとめ:契約書は“信頼の土台”。開業前に整えておくことが必須
不動産業において契約書は単なる形式ではなく、顧客との信頼構築・リスク回避・業務の安定化の要です。
開業前に以下の契約書テンプレートを整備し、社内での運用ルールまで明確にしておくことで、スタートダッシュを切ることができます。
- 媒介契約書(売買・賃貸)
- 重要事項説明書
- 売買契約書・賃貸借契約書
- 管理委託契約書
- 個人情報取扱同意書
さらに、法改正やトラブル事例を踏まえた定期的な見直しと、電子化対応を意識することで、実務レベルでの競争力と信頼性を高めることができるでしょう。



