宅建業の業法違反になる営業手法と罰則事例まとめ

不動産業界における営業活動には、宅地建物取引業法(以下、宅建業法)によって厳格なルールが定められています。
開業したばかりの不動産会社や新人営業担当者が知らずに行ってしまう営業手法の中には、違法行為とみなされ、行政処分や刑事罰に発展するリスクがあるものも少なくありません。
この記事では、宅建業法に違反する営業手法の具体例と、実際の罰則事例・処分内容をわかりやすくまとめました。コンプライアンスを守りながら信頼される営業活動を行うための参考にしてください。
宅建業法で禁じられている営業手法とは?
宅建業法では、不動産取引の安全性と公正性を確保するため、営業行為に対して明確な禁止事項が定められています。代表的な違法行為は以下のとおりです。
1. 虚偽・誇大広告
宅建業法第32条では、誤解を与える広告や事実と異なる表現は禁止されています。
- 存在しない物件を「空室あり」として広告
- 「駅徒歩3分」と表示しつつ、実際は10分かかる
- 実際には申込不可の物件を集客目的で掲載
→ 虚偽広告は、業務停止命令や罰金刑の対象になります。
2. 不当な勧誘・しつこい訪問営業
宅建業法第47条では、威迫・困惑させるような勧誘を禁止しています。
- 断った相手に何度も訪問・電話
- 「今すぐ契約しないと損をする」と強引に迫る
- 高齢者や知的障害のある方への不当勧誘
→ 消費者契約法にも抵触し、行政指導や契約無効となる場合もあります。
3. 宅建士以外による重要事項説明
宅建業法第35条により、重要事項説明は宅建士が行うことが義務付けられています。
- 無資格者が説明を担当し、宅建士が後から押印だけ
- 宅建士が不在時に契約締結を進行
→ 業務停止処分や、再発防止命令の対象となります。
4. 手付金等の保全措置違反
宅建業法第39条に基づき、一定額以上の手付金を受領する際には保全措置が必要です。
- 保全措置なしで手付金を受領
- 指定保管機関を経由せず口座入金
→ 罰則対象となり、免許取消に至ることもあります。
5. 無免許営業・登録外での活動
宅建業者は、免許を受けた範囲内でのみ営業可能です。
- 営業所として登録していない場所で契約を行う
- 宅建業免許が失効した状態で継続営業
- 他社の名義を借りて実質的に営業する(名義貸し)
→ 最も重い違反であり、刑事罰や業務禁止命令が下されます。
実際にあった業法違反の処分事例
ここでは、実際に行政処分が下された事例をもとに、違反の内容と罰則の内容を紹介します。
事例①:架空の物件を使った誇大広告(東京都)
概要: 実在しない物件を「現在募集中」として掲載し、来店後に別の物件を紹介する「おとり広告」を繰り返していた。
処分内容: 宅建業法違反により、業務停止命令(1ヶ月)と再発防止の業務改善命令
ポイント: 集客目的の虚偽掲載は、広告業者からの指摘や苦情で発覚することが多く、摘発リスクが非常に高い。
事例②:無資格者による重要事項説明(大阪府)
概要: 宅建士が不在の際、事務員が代わりに重要事項説明を行い、契約締結後に宅建士が押印していた。
処分内容: 宅建業者に対し業務停止処分(2ヶ月)、宅建士には登録取消処分
ポイント: 宅建士が「印鑑だけ貸す」行為も名義貸しと見なされ、重い処分の対象となる。
事例③:過度な訪問営業による消費者被害(愛知県)
概要: 高齢者に対して繰り返し訪問し、不安を煽る形で契約を迫った。家族が契約後に異議を申し立てて発覚。
処分内容: 業者に対し指導命令と行政勧告、再発防止の報告義務
ポイント: 高齢者や判断能力が不安定な顧客への対応は、常に慎重さと説明責任が求められる。
違反を防ぐための営業現場でのチェックポイント
1. 顧客対応に関する社内ルールの整備
- 強引な営業を禁じる行動規範を文書化
- 苦情・クレーム対応マニュアルの策定
- 営業記録の残存(録音やアンケート)を義務化
2. 宅建士業務の適正運用
- 宅建士の出社状況・実務関与を明文化
- 説明時には宅建士証を提示し、記録を残す
- 電子説明の場合はログ記録を保存
3. 広告チェック体制の構築
- 掲載前のWチェックを社内でルール化
- ポータルサイトに依存せず、元データを定期確認
- 間取り、方位、距離表記における業界ガイドラインの遵守
違反を繰り返すとどうなるか?
宅建業法違反は、1回目で軽い指導に留まる場合もありますが、繰り返し違反すると処分は確実に重くなります。
違反回数 | 想定される処分 |
---|---|
1回目 | 指導・警告・改善報告の要求 |
2回目 | 業務停止命令(数日〜数ヶ月) |
3回目以降 | 宅建業免許の取消、刑事告発の可能性 |
信頼と許認可に基づく事業だからこそ、法令違反は「廃業」に直結する重大リスクです。
まとめ:営業力よりも、まず「法令遵守力」
不動産業界は人と人の信頼関係に成り立つ業界です。その信頼の前提となるのが、宅建業法の遵守と誠実な営業姿勢です。
これらは一見“売上のため”に見えても、結果的に会社の存続リスクを高めるだけです。
営業現場では「違法になっていないか?」という視点を常に持ち、法令遵守をチーム全体で徹底することが、長期的な顧客信頼と事業継続のカギとなります。