不動産業の法令遵守で気をつけるべき業務と標識設置義務

遵守の注意点と、宅建業法で義務付けられている「標識設置」のルールについて、実務に直結する内容をわかりやすく解説します。
不動産業の法令遵守で気をつけるべき業務とは?
宅建業法に違反すると、業務停止や免許取消など、事業存続に関わる重大なリスクにつながります。以下に、日常業務で注意すべき代表的なポイントを紹介します。
1. 媒介契約の締結と説明内容の管理
不動産会社は、売主や貸主と「媒介契約」を結ぶ際、契約形態(専属専任・専任・一般)に応じて、法定事項の説明と書面の交付が義務付けられています。
よくある違反例:
→ 特に「専属専任媒介」ではレインズ登録や定期報告義務もあるため、抜け漏れがないよう社内でチェック体制を整えることが重要です。
2. 重要事項説明の実施と宅建士の関与
重要事項説明書(35条書面)は、宅建士が対面またはオンラインで説明し、署名・押印を行うことが義務です。
注意すべき点
→ 宅建士の不在時に無資格者が対応してしまうと「無資格営業」にあたるため、宅建士のスケジュールと業務をきちんと紐づけておく必要があります。
3. 取引時の契約書(37条書面)の交付義務
契約成立時には、売主・買主・貸主・借主それぞれに対して「契約内容を記載した書面(37条書面)」の交付が必要です。これも宅建士の記名・押印が求められます。
→ 書面交付を忘れる、契約日を実際と異なる日付で記載するなどの行為は、トラブルの原因になります。
4. 広告表示の内容と掲載管理
広告における虚偽・誇大表示は宅建業法第32条で禁止されています。
NG例:
→ 特にポータルサイトとの連携で一括更新を行っている場合、掲載中の情報が最新であるかどうかを定期確認する仕組みを社内に設けておく必要があります。
5. 顧客情報の取り扱いと個人情報保護
不動産取引では氏名・住所・年収などの機微情報を扱うため、個人情報保護法への対応も必須です。
→ 同意書の取り交わしやデジタルデータの保管ルールは、必ず開業時に整備しておきましょう。
宅建業における「標識設置義務」とは?
宅建業法第50条では、不動産会社が営業所を設置する際に「標識(いわゆる店頭看板)」を掲示することが義務付けられています。
どこに設置する必要がある?
- 本店(主たる事務所)
- 支店(従たる事務所)
- 展示場、モデルルーム等(契約行為を行う場所)
→ 「事務所」とみなされるかどうかは、【継続的な人員配置】【契約の締結可能性】【看板表示の有無】などをもとに判断されます。
標識の内容に必要な記載事項
標識には、以下の情報を定型のフォーマットに則って明記する必要があります。
→ 記載ミスや未掲示は、「法令違反」とみなされる可能性があるため、開業時のチェックリストに含めておくべき事項です。
サイズ・設置位置などのルール
- 縦横30cm以上の掲示が原則(自治体により若干の違いあり)
- 店舗入り口から確認できる位置に設置
- 消えかけた文字や風化したプレートも違反対象となる
→ 特に賃貸物件を利用している場合、「店内のみの掲示」では違反となる可能性があるため、ガラス面や壁面に外向きで設置することが望ましいです。
標識の設置義務違反で起きうるリスク
- 行政指導や改善命令
- 再検査対象として頻繁に調査を受ける
- 「無許可営業」や「名義貸し」と誤解される可能性
→ 実際には標識の掲示がなかったことで、近隣住民から通報を受け、調査に発展する事例も発生しています。

法令遵守のために開業前後でやるべきこと
タイミング | 対応内容 |
---|---|
開業前 | 標識の手配、設置場所の確認、テンプレート契約書・書面の整備 |
開業当日 | 宅建士の勤務体制整備、媒介契約・説明の流れの確認 |
開業後 | 広告表示のWチェック、従業員への定期的な法令研修 |
→ 法令遵守は一度整えたら終わりではなく、社内全体で継続的に点検・アップデートしていく体制が重要です。
まとめ:コンプライアンスは信頼の礎、標識はその象徴
不動産業界は免許制度に基づき、「信頼」と「法令遵守」のバランスで成り立つ業種です。
中でも標識は、その不動産会社が法的に正しく営業している証明となる、いわば「顔」のような存在。
一方で、日々の営業現場ではつい見落としがちな法令違反も少なくありません。
だからこそ、開業準備段階から法令・書面・標識の整備を怠らず、「安全な運営体制」を作ることが、長く地域に根ざした不動産会社として信頼を得る第一歩になります。